中学生の皆さんへ

中学生の皆さんへ

​ 私は,職人であった父の背中を見ながら,生きていくことは専門性を早く身につけることであると学び,高専への進学を決意しました。高専時代は,先生やクラス仲間,部活や寮の先輩と後輩に囲まれて充実した5年間でした。受験社会で重圧を受ける高校生と違って,自発的な向上心を幾らでも発揮することができる場所でした。同じクラス仲間といつしか互いに人格を尊重しあい,あるいは注意して助け合うなど,今の時代にない大家族的な教室が生まれました。人間形成において最も将来に影響すると言われる二十歳までの重要な5年間を,高専で過ごせたことがいかに幸せであったか。卒業して25年たっても,仲間との交流は継続しており,いまも変わらずに,人生の良き助言者となってくれています。

北海道大学大学院教授 村井祐一先生

 高専では,1年生から学ぶ専門科目に強い衝撃を受けました。先生の口から滑らかにあふれる専門知識が本当に格好良く,プロとは何かを痛感しました。3年生になると,高度な専門科目が益々,楽しくなり,自分も科学や技術を一歩でも進めることができる人になりたいと夢を抱き始めました。勢い余り先生に質問攻めや反論を繰り返し困らせているうちに,大学に進学したらどうかと提案を頂きました。家庭が経済的に苦しいため私自身は大学など考えていませんでした。数日後,親から連絡がありました。担任の先生が私の親に私を進学させるよう説得してくれたのです。私の今の人生は,石川高専の恩師が決めてくれました。

 幼少期,紙と鉛筆さえあれば絵を描いて卓上でアイデアを並べるのが大好きでした。そのスタイルは研究生活にある今もちっとも変わっていません。違いは国内企業や欧米の一流研究機関との連携です。現在,最も注力している研究は,船舶と風力に関する20年先の技術革新です。いずれも高専で学んだ流体力学の応用です。全ては高専と大学で学んだ「知識と創造を組合せる方法」の自分なりの応用です。人は専門性を高めると,いつか全く違う専門家と手を組んで世界をリードすることになるのです。私はいま,電力会社や造船会社だけでなく,動物学者や天文学者とも共同研究しています。最近では文学者と手を組み,私の専門である流体力学を文学に適用し,物語の流れを美術的に映像化することに成功し,学会賞を頂きました。専門性とは活躍の場を一気に拡充する人生の支柱ではないでしょうか。

 中学生の皆さんも,自分の興味関心を大切にして,それぞれ将来の夢の実現に向かってがんばってください。